〈去年はいい年になるだろう〉山本弘

タイトルからして何やら普通じゃない雰囲気──SFな雰囲気がぷんぷん漂っていますね(笑)
作家って、どちらかというと、書く作品の主人公に自身を投影させたりとか多いですけれど、この作品は、もろ私小説といってもいいほど、山本弘自身のことが赤裸々に書かれています。
自分を主人公に据えて、しかもSFを書くという離れワザ?は、ミステリでは多くありますが、SFではけっこう目新しいのではないかと思います。

2001年9月11日、本来ならば、米国同時多発テロが行われたはずのその日、ガーディアンと名乗る24世紀から来たロボットたちが現われて、その事件を未然に防ぎ、歴史は改変されたと宣言する。
しかも各国の武器や兵器などを無力化して、これから起きる戦争や災害から人類を護るのが、これから10年間の自分たちの使命だという。
妻、真奈美と娘、美月と暮らす、作家の山本弘のもとに、美少女アンドロイドのカイラが現われ、2029年の自分から送られたCD-ROMを手渡される。
その中には、自分が2029年までに書いた作品と、メッセージが入っていた。

とにかくロボット以外、出てくる人間全員が実名で、私小説みたいな、内輪受けみたいなノリで、とくに妻との、出掛けには必ずキスをするという、らぶらぶぶりを見せつけられている感じもしました(笑)
あと、唐沢俊一自身の未来からのメッセージで、「岡田斗司夫が50キロの減量に成功してダイエット本を出してベストセラーになる」や「浦沢直樹が「鉄腕アトム」をリメイクする」「「マッハGOGOGO」をハリウッドで実写化する」「三池崇史が「ヤッターマン」を実写化」というのを聞き、山本と2人で、「いくらなんでも、ありえないだろ~」というくだりには笑ってしまいました。
たしかに2001年のこの当時ではこれらはありえないですよね(笑)

未来から来たロボットたちが、世界同時多発テロなど、多くの人が犠牲になる事件を未然に防げたら、そりゃあいいですけれど、その他、自殺者や事故や病気で亡くなる人まですべて救うとなると、やりすぎの感じもしなくないです。
そのおかげでひずみが出来て、新たに不幸な人や死亡者を出してしまう。
それでも大勢の人が死ぬことになるよりはいいと信じて、人類のひとりひとりを救う使命を続ける、ロボットたち。
もしかしたら、このロボットたちは、善意のテロなのかもしれないな、などと思ってしまいました。
そして山本自身も、例外なくロボットに人生を翻弄されます。
人間との信頼を得るために作られた、美少女アンドロイド、カイラとの、浮気を疑われて、妻と離婚への危機、そして、死亡。
そのことを警告するために、過去の世界の自分に宛てて、メッセージを送る山本弘。
それを、受け取る20代の若かりし山本。
結局、SFの体裁をした、妻への賛歌という感じもしますが(笑)、しんみりくるラストはなかなかよかったです。

PHP研究所 2010年4月発行 ★★★☆


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Secre

No title

タイムパラドックスものですか?
この方の描く、美少女ロボットはなかなかいいですよね。

No title

公私ともに変えたい過去は誰だって思いつくけど、未来になってから直したくなるような今を作らないことがきっと大事なんでしょうねえ。

No title

めにいさん。タイムパラドックスで、いろいろな世界が出来てというノリです。今回、美少女ロボットは前面に出ないですが、作中、アイの物語のセリフとかが出てきてニヤリとさせます。

No title

イカダさん。なんかかなりイイこと言ってますねえ。。。(笑) 今から、責任もってちゃんと生きないといけないかも。。。ま、私の場合は毎度テキトーに、ですが(笑)

No title

タイムパラドックスを扱うとはハードSF系の山本氏にしては異色な感じがします。
「2029年までに書いた作品」ということは当然この作品も入っているわけで…

No title

自分のキャラを前面に出してくるという小説のノリも珍しいかも。この作品はなかったけれど、〈アイの物語〉〈神は沈黙せず〉とかは出てました。そのまま出版社に出してしまった作品もあったようです(笑)

No title

確かにタイトルが気になっちゃう本ですね

No title

タイトル、気になりますし、ちょっとオイシイですよね~
プロフィール

藤中

Author:藤中
好きな作家は、
F・ポール・ウィルスン。
他にスティーヴン・キング、ブレイク・クラウチ、ジョージ・R・R・マーティン、伊坂幸太郎、近藤史恵、島田荘司などをよく読んでいます。
たまに映画関連、海外ドラマ関連、KinKi Kids関連の投稿があるので、
気をつけてください。

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