〈炎路を行く者〉上橋菜穂子

守り人シリーズが完結してから、忘れたころにこっそり外伝が出ていますが、これもそのひとつ。
「蒼路の旅人」でチャグムをさらった、タルシュ帝国のヒュウゴの生い立ちを描いたこの作品は、なんと「蒼路の旅人」以前に書かれていた話で、それゆえに今まで日の目を見ることのなかったということのようです。
今回、バルサの少女時代を描いた「十五の我には」と舞台背景を似かよわせたおかげでか?日の目を見ることになったみたいです。
著者のキャラに対する並々ならぬ深みを感じます。

【炎路の旅人】
ヨゴ皇国の近衛兵の父親を持つヒョウゴは、ある日タルシュ帝国に侵略に遭い、命からがら助かる。
助けたのは不思議な生き物で会話をする、リュアン。
その父、ヨアンの家にしばらく厄介になるヒョウゴだが、迷惑がかからないように酒場で下働きをすることになるのだが。。。

口の利けないリュアンとの会話に、ヒョウゴの首に巻き付いてその意思を伝える、この世のものでない生き物が、自然に物語に溶け込んでいるところにワザを感じました。
この生き物の存在や、リュアンの目に見えているものなど、ナユグとのつながりを感じさせます。

【十五の我には】
護衛士の仕事をしている最中に、はめられた十五歳のバルサは深手を負い、ジグロとともにしばらく街の酒場で下働きとして働くことになるのだが。。。

十五歳の時に、自分に足りないことを気づかなくても、二十歳になれば気づくようになり、二十歳の時に気づかないことがあっても、三十歳なれば気づく。
年をとるごとに若いころの自分の至らなさに気づく。
それは死ぬまでそんな感じなのかも、と読んでいて思ってしまった。
ちょっとした話なのだけれど、やけに考えさせられる話に展開させるのはさすが。
相変わらず、推敲に推敲を重ねた文章は、読んでいて心地いいし、ほんと上手いのひとことです。

偕成社 2012年2月発行 ★★★☆


http://ecx.images-amazon.com/images/I/61KmLIINMJL._SL75_.jpg炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)
読了日:03月29日 著者:上橋 菜穂子

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〈獣の奏者 外伝 刹那〉上橋菜穂子

アニメ化されたりと、今ではかなりの知名度になったこのシリーズ。
Ⅰ、Ⅱでは主人公エリンの少女時代を、Ⅲ、Ⅳでは大人時代を描き、堂々の完結となったはずなのに外伝とは、ちょっとうれしいサプライズかも。
なぜか今回の本に限って、うちの図書館の新着欄に、こどもの本ではなく、おとなの本として記載されてありました。
この、うちの図書館のこだわり?は、あとがきを読んだ図書館員さんの配慮でしょうか?

【刹那】
妊娠したエリンが産気づいて破水したが、無理をしたために、母子共に危険な状態となる。
隣の部屋で無事に生まれてくるのを待つエリンの夫イアルは、そもそもこうなったエリンとのなりそめを回想する。。。
じつはイアン視点から描くのが妙に新鮮で、最初、いったい誰の視点かわからず戸惑ってしまった(笑)
本編はエリン視点ばかりだったもので。。。
【秘め事】
カザルム王獣保護場の最高責任者であるエサルの若き日の出来事。
エサルって、誰だっけ?といきなり最初のページの登場人物を確かめてしまったけれど(笑)、なかなか情熱的な話でのめりこむようにして読んでしまった。
こういった立場の女性はひどく共感を覚えてしまうので、思わず感情移入してしまった。
ある一定のムチカが木の皮を食べるのはなぜなのかというのと、それを王獣の治療にというくだりが、なかなか読ませた。
【初めての……】
エリンの息子のジェシとのエピソード。
エリンの親バカぶりが微笑ましいです(笑)

ⅡとⅢの間の11年の空白を埋めるべく書かれた外伝ということで、Ⅲでいきなり子持ちになってしまったエリンとイアルの馴れ初めがわかって興味深かったです。
Ⅳで出てくる、もともと住んでいた家を売らずに残したエピソードも興味深かったし。
短篇だからといって手を抜くのではなく、むしろ密度が濃い感じです。
登場人物のひとりひとりが著者のなかで生きているからなんでしょうね。
とにかく読み手を読ませる筆力というのが半端ではない。
キャラたちにこめられた想いというのがほとばしるようなこの作品集。
まだまだ書き足りないような、ただならぬパワーを感じました。

講談社 2010年9月発行 ★★★★

http://ecx.images-amazon.com/images/I/51vWe1WmwuL._SL75_.jpg獣の奏者 外伝 刹那
読了日:11月05日 著者:上橋菜穂子




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〈このどしゃぶりに日向小町は〉鳥飼否宇

鳥飼否宇、初読です。
タイトルが目についたので予約したんですが、今年の1月発売なのに、すでに私の後ろには誰も予約が並んでいません。
嫌な予感を感じつつも、こわごわ手にとってみました(笑)

男が眼を覚ますと、真っ白な部屋にいた。
部屋は自分がいるベッド以外は何もなく、掛けている毛布が唯一の持ち物だった。
いったいここはどこなのか?
病室のような気がするけれど、どうも違う。
男は昨日までの記憶もなく、自分の名前さえも思い出せなかった。
ふいに、部屋にある監視カメラに気づき、男は毛布をなげてそれにかぶせる。
とたんに電気が暗くなり、何者かがあわてたようにドアを開けて入ってきた。
男はこれ幸いとばかりに闖入者を襲い、脱出を図るのだが──

冒頭の、記憶のない人間が密室で目覚めて。。。という出だしはすごく面白かったのですが、逆にこの設定だと1つのパターンに陥る(人体実験だとか)危険性も高いので、そっちの方向へ行くとちょっと嫌だなと思っていたら、やはりの展開だったのでう~ん(笑)となりました。
しかもその展開を新鮮に見せようとしたのか、エログロを爆発させいしまったのも、どうもという感じで。。。
どうもこの作品は何かの続篇的な作品のようなので、たぶん、前作を知っていたら、もっと楽しめたのかも。。。
とはいっても、出だしと終わり方はなかなか印象的で良かったので(笑)、あと1作くらいは違う作品にチャレンジしてもいいかなという余地は残しましたが(笑)
しかし、なんで途中がああなってしまうんだろ。。。(笑)
せっかくの冒頭とラストが、もったいない。。。


このどしゃぶりに日向小町は (ハヤカワ・ミステリワールド)
読了日:04月01日 著者:鳥飼 否宇
早川書房 2010年1月発行
★★☆

セブンアンドワイがセブンネットショッピングになって、アフィリエイトからいなくなってしまったので、急遽、読書メーターから画像をリンクしました。
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〈獣の奏者Ⅲ探求編・Ⅳ完結編〉上橋菜穂子

あの〈獣の奏者〉に続篇があったなんて、ぜんぜん思ってもみなかったです。
なので、続篇の刊行には、ほんとびっくり。
しかも完璧に完結したと思っていた話から、うまい具合に謎を引きだしていって、その謎を解明するために再び、わくわくするような物語が展開されるとは。。。
これはもう、さすが上橋菜穂子。。。ひれ伏すしかというしかないという感じです(笑)

11年後ののち、エリンはひとつの闘蛇村を訪れることになる。
リョザの戦闘部隊ともいうべき〈牙〉と呼ばれる、闘蛇の大量死がおきたのだ。
大量におきる〈牙〉の死は、あちらこちらの闘蛇村でも過去にみられていたものだった。
リョザ神王国の大公に、この大量死の謎を解くようにいわれたエリンは、真相を探るうちに、驚くべき事実に突き当たるのだが。。。

「獣の奏者Ⅰ闘蛇編」のエリンの母が犠牲になるあのプロローグから、この話の展開を考えていたのかと思うほど、あのときのエリンの母親が言ったことの意味が、ここでわかるように出来ていて、思わずうなりました。
でも、あとがきを読むと、前のⅠ、Ⅱで完結したと作者も思っていたようで、続篇は書くつもりはなかったようで。。。(笑)
アニメ化にあたって最初から読んでみたら、脳髄を直撃するような発見があったとのことのようです。
こういった神がかり的なこともプラスしてこの小説を書き上げたからか、Ⅲはもう、何かにとり憑かれたごとく、怒涛の勢いでした。
前の巻から10数年が経ち、ちょうどエリンが母となって、母のソヨンと同じ運命に陥ったのも、また運命的なものなのかもしれないです。
そのとき、エリンの母は死を選んだけれど、エリンは生き抜くことを選んだのもまた、母に眼の前で死なれたエリンの思いなのかも。
闘蛇をも軽々と食い殺す、王獣を操るエリンは、味方の国からも監視の対象で、敵の国からも刺客が放たれる存在。
このままでは最強の王獣は国の武器とされ、否が応でも戦いが始まると思ったエリンは、リョザから逃げようとしますが、子供を抱えては逃げられないと悟り、断念。
だからいって生きることを選び、死ぬことはできないエリンは、敢えて、王獣と闘蛇とが戦って、すべてのものが全滅してしまったという前史の通り、王獣を武器として戦場に赴きます。
そして、そこでエリンが眼にした真実とは。。。
う~ん、そうか。。。
もしかしたら、王獣とは、現代でいう核兵器みたいなものなのではないか、この小説を読んで思いいたってしまった。
そしてこれは、現代人への警告のような気もしてならなかったです。

〈絶望ノート〉歌野晶午

タイトルからして、お先真っ暗な感じな小説っぽいですけれど(笑)、ちと、湊かなえの〈告白〉に感化されて書いたのかなとも思ってみました。
とはいっても、〈告白〉は先生が、自分の子供を生徒に殺されたと告白する場面から始まって、かなりのブラックな終わり方をするのに対して、こっちのほうは中学2年の太刀川照音が、苛めた相手を殺してくださいと神に祈った絶望ノート。
そのノートに書かれている、照音を苛めた男子生徒が次から次へと殺されていく展開。
はたして神様が本当に天罰を下したのか、それとも。。。というのが、この小説の落としどころです。
父親がジョン・レノンのコスプレをするほど(笑)、ジョン・レノン命で(妻はもちろん瑶子(ヨーコ))、子供にも照音(ショーン)とつけてしまったので、太刀川照音でタチションとあだ名をつけられ、だんだん苛めがヒートアップして、照音が神様にすがっていくさまは、かなり読ませるんですが、私は〈葉桜の季節に君を想うということ〉のオドロキを想像していたので、けっこう結末が想定内だったりして。。。
というか、なんだか人騒がせな絶望ノートという感じもしなくない。
でも結局、自分でまいた種は、自分で刈り取るみたいなラストのオチはちょっといいかも。
全体的にはインパクトが弱い感じもしますが。。。
とりあえずは、こんなことで死んでしまった人にはご愁傷様というしかないです(笑)



幻冬舎 2009年5月発行
★★☆
プロフィール

藤中

Author:藤中
好きな作家は
F・ポール・ウィルスン。
他にスティーヴン・キング、ブレイク・クラウチ、ジョージ・R・R・マーティン、伊坂幸太郎、近藤史恵、島田荘司をよく読んでいます。
たまに映画関連、海外ドラマ関連、KinKi Kids関連の投稿があるので、
気をつけてください。

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